あなたは現在80歳のお年寄りだとしましょう。眼の前少し離れたところにあるのは、陸上競技で使われるハードルです。「スタートラインに立って、あのハードルを超えてください。」と言われたとします。
多くの人が、ハードルを倒すのでもなく、超えるのでもなく、避けてしまうのではないでしょうか。
なぜでしょうか。
おそらく、80歳にもなると、ハードルを倒したとしても自分も一緒に倒れてしまうだろうし、走り出す前から超えるのは無理だと思ってしまうのではないでしょうか。私たちは、そのように思わされている現実を日々過ごしています。
日本では75歳を超えると後期高齢者と呼ばれ、かなりの割合の方が、高齢者施設で日常を過ごしています。もちろん、私はそのことがだめだとは言いません。福祉政策に限界がある中で、日本の社会は高齢者に多くの手を差し伸べています。
問題は当事者である高齢者自身に同じように限界があると思わされている現実があるということです。
どういうことかというと、高齢になるほど、記憶があいまいになり、動作が緩慢になります。そのこと自体は自然なことなのですが、自分自身がそのことを認めて加速させているということです。

1ヶ月以上の入院を経て
私自身の話をします。私は、2024年9月にステージ4の大腸がんが見つかり、10月に手術を受けました。
思った以上に大変だったのが術後でした。ベッドから上体を起こすことだけでも苦痛でした。腕には点滴、お腹には管から血の混じった液体が袋に流れていて、尿道にも管が通っていました。日々やせ細り体力が落ちていく感覚がありました。寝ていてもベッドの端をつかまないと寝返りが打てない状況です。血圧も体温もその都度激しく上がり下がりがあり、それが測り方によっても変わるということに気づいたのが退院が近づいてからのことでした。
病院内でリハビリを始めてからも、この状態が退院後も長く続くような気がしていました。
退院後すぐにイベント出演
それは本当にすぐでした。退院して1週間後には、立て続けに2つのイベントに出演してステージで演奏をしています。ひとつは入院前から予定が組まれていて、あらかじめ、もしかしたら出演できない旨を伝えていたイベントでした。この2つのイベントに出演できたことは大きな自信と勇気を与えてくれました。
腰を痛めたり、疲れやすかったり
少しでも体力を取り戻そうと、ダンベル運動をやろうとしたら、それが腰にきて、腰を痛めました。それでも、もうだめだと思うのではなく、ほかの方法で体を動かそうと努めました。何があっても、手術のせいでも、年齢のせいでもないと思い、今ここのある体とただ向き合うことだと考えました。
体は確かに過去の自分とは違うわけです。ただ、体は、一日一日生まれた変わります。体にとっては日々が経験です。昨日こうすれば良かったということが通じないことがあります。それなら、今日の体に向き合うしかありません。
超えられるかも知れない
ハードルを倒すかも知れない。でもチャレンジしてもいいんじゃないか。
ステージは2Bに
抗がん剤治療が始まる予定の日。主治医から告げられたのは、総合的に判断して現時点でステージは4ではなくて、2Bだと言われました。「再発した場合のことを考えると、抗がん剤治療はやった方がいい。1週間延期するので、それまでにどうするかを考えてほしい。」
1週間悩みました。
がんが転移、再発した場合、もう手術はできない、延命治療しかない。再発の可能性を下げるためには、抗がん剤治療を受けることだと言われていました。
結局抗がん剤治療は受けないことにしました。今、1年半が過ぎ、来週途中経過の診断を受けます。
何があっても現実を受け入れる覚悟です。
